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・(8-9)

 魔法生物兵器オンルッカー・フィファがケンタウロスの都で虐殺をしていた時とほぼ同時刻。
 植物人「フランタオン」の里でも虐殺が行われていた。
 虐殺を行っているのは”灼熱の堕天使”バルログ。その異名の通り、全身から灼熱を放つ魔人である。
 バルログが一歩踏み出すだけで、木々は燃え盛り、更に一歩を踏み出せば、木々は灰となって崩れ落ちる。そして、今燃えている木々は全て高い知性と文化を持つ、立派な人種である。
「不甲斐ナイ……。ヤハリ、ふらんたおんデハ、コノ程度カ……。」
 バルログは心底退屈そうに呟いた。
 彼は元々は天に仕える天使の一族であった。が、主君たる神ではなく『力』を崇拝し始めた為、天から堕とされた。完全に堕天した今となっては、強大な『力』を思う存分ぶつけ合う戦いこそが彼の全てになっていた。
「久々ニ、地上ニ召喚サレタト思ッタラ、ナント歯応エノナイ……。」
 バルログが炎混じりの溜息を吐いた時だった。
 彼の頭上に青い、大きな魔法陣が花開き、そこから滝のように海水が溢れ出したのだ。
「ム?」
 大量の海水が高温のバルログに触れる。勿論、ただ海水を浴びせただけでは何の意味もない。が、海水は蒸発すると体積が数倍の水蒸気になる。大量の海水が一気に水蒸気化した事で、大気が膨張し……破裂した。
 大規模の水蒸気爆発だ。
 バルログを中心とした半径約十メートル内の全てが一気に吹き飛ぶ。
 猛々と立ち込めるのは高温の蒸気。霧のように充満する高温の蒸気を切り裂いて、何かがバルログの頭部に向かって突っ込んできた。
 それは『影』であった。影を切り抜いたかのような、漆黒の矛槍(ハルベルト)だ。高温の霧で視界を防いだ上での高速刺突だった。
 が、バルログはそれを軽々と右手の剣の腹で受け止めた。
「アァ、少シハ楽シメソウナ奴ガ居タカ。」
 防がれたとみるや直ちに槍は霧の中に引っ込んだ。その引っ込んだ場所に向かって、左手の鞭を振るうバルログ。しかし、相手は既に移動してしまっていたのか、手応えがない。
 代わりに、槍が来た反対の方向から、大きな津波が押し寄せてきた。水圧で相手を押し潰す魔法”潮津波(タイダル・ウェイブ)”だ。
 バルログにぶつかった”潮津波(タイダル・ウェイブ)”は、しかし彼を押し潰すことが出来ずにあっさり蒸発してしまった。
「”凍てつく霜(フローズン・フロスト)”!」
 立て続けにまた別の方向から呪文が発せられ、急速に地面が白く染まる。白い地面はバルログの足を巻き込んで固まった。大量の霜がバルログを地面に凍り付かせたのだ。
 それを見計らったかのような絶妙のタイミングで、先ほどの矛槍が、今度は斧刃による斬撃で、バルログの頭上に迫った。
「相手ハ、複数カ? マァ、ソウデナケレバツマランナ。」
 身動ぎ一つで足元の霜を根こそぎ蒸発させ、あえて斧刃を避けずに頭で受け止める。
 ザックリと見事なくらいに、斧刃が頭にめり込む。だがバルログは、クリーンヒットしたことで動きが止まった矛槍を、何事も無かったかのように平然とした顔で睨んだ。
「我ハ魔人ナリ。我ニ向イシ者ドモヨ、魔人ノ肉体ハ殺セヌコトハ知ッテイルカ?」
 知っている、と霧の向こうから声があった。若い男の声だ。
「だから、元の世界に帰って貰おうか。」
 斧刃が更に強く押し込まれ、バルログの顔を斜めに切り裂く。
 間界の住人たるバルログは、殺した程度では死なない(、、、、、、、、、、、)。精神生命体であるが故に物理的な傷はあまり意味がない、というのもあるが、何よりも持っている力の大きさが半端ではない故、死んだ際に世界のパワーバランスが崩れてしまうからだ。
 パワーバランスの崩壊とはつまり、世界規模の秩序の崩壊。それを防ぐ為に、彼らは死ねばすぐさま同じ存在に転生するようになっている。即ち、完全なる唯一無二の存在にして不死。それが『灼熱の堕天使』バルログである。
「言ウハ易シ、行ウハ難キコトダ。我ガチカラ、身ヲ持ッテ知ルガイイ。」
 バルログの左手の鞭がしなり、矛槍の柄に巻きつく。燃え盛る鞭はそのまま柄を焼き尽くさんと高熱を発する。
「ナカナカ良イ魔槍ダガ、我ガ『炎ノ舌』ニハ敵ワヌ。」
 漆黒の魔槍がバルログの鞭の高温に耐え切れず、赤く焼け爛れ始める。それだけでなく、鞭が柄を伝い、まるで植物の蔓のように、霧の向こうに居る筈の相手に向かって伸びていく。
「それはフェイクだ。」
 突然、柄を伝って黒い稲妻が迸り、バルログの体内を駆け巡った。
「ヌウッ」
 更に、二度、三度と黒い稲妻が迸る。堪らずバルログは矛槍を引き抜いて、地面に投げ捨てた。いかに不死と言えども、一応、痛覚はあるのだ。
「小賢シイ!」
 やはり絶妙のタイミングで飛んできた札を右手の剣で斬り払う。バルログのように召喚された間界の住人を強制的に間界に送り返す札だった。札に込められた魔力がよほど大きいか、自身が大きなダメージを受けていない限りはまず効かないのだが、それでも強制送還というのはとても嫌なのだ。
「チョロチョロスルノハ、ココマデニシテ貰オウ。」
 それまで背に畳んでいた炎の翼をはためかせるバルログ。たったそれだけで、火山の噴火のような巨大な火柱が立ち上がり、濃霧を一瞬で吹き飛ばす。
 霧の向こうに居たのは、大小様々な者たちだった。
 まず、バルログが気になったのは、彼の上空で羽ばたいている、黒い翼を持つ男。全身黒尽くめで、手には漆黒の矛槍を持っている。
 他には小人一人を含む4,5人が遠巻きに取り囲んでいるのが分かる。
「正ニ、塵芥(じんかい)トハコノコト。我ニ触レル事モ出来ヌ小サキ者ドモヨ。如何ニシテ我ヲ倒スノカ?」
 実際、バルログが全力で近付いただけで(、、、、、、、、、、)、消し炭になるような面子だった。
 ただ一人、上空に居る黒い翼の男を除いて。

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