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夢源学園のこの日の授業は午前中だけで終了していた。何か会議だか行事だかがあるらしいからだが、優牙にとってはどうでも良かった。 彼は今、ほとんど何も無い殺風景な学園の屋上で城井星夜と対峙しているからだ。 「よぉ来たな。」 やって来た優牙を見据えた星夜が声を掛ける。彼の傍らには、青い工具箱のようなものが置いてある。 「筆箱を元に戻して貰おうか。」 優牙が手を差し出すと、星夜は「まだ事が終わってからや」と言って譲らなかった。 「一体何の用だよ。こっちは因縁付けられる覚えはないぞ。」 「ワイにはあるんやなぁ。あ、警察にチクった事とはちゃうで。」 優牙にとって思い当たるふしといえば、星夜がセクハラを働いていたので警察を呼んだ事くらいだ。だが、当人はそれは違うという。 「まぁ確かにやな、警察にチクったんを怒ってへんかいうたら、ちぃとは怒っとるんや。 せやけどな、ワイはセクハラに命賭けとんねん。相手に屈して警察に捕まるか、ワイが押し通して逃げ切るか……。 ワイにとってセクハラはスポーツやねん。」 方言がきつく、何と言っているのか半分くらいしか優牙には分からなかったが、何やらセクハラに誇りを持っているらしい。だが……。 「セクハラはセクハラじゃんか。」 「いや、それはそやねんけどな。 あー、分からんかな、この情熱が!」 「情熱ってよりは欲情だろ。早く筆箱を戻してくれ。」 「ま、そう急ぎなさんな。ここらでちょいと一勝負せぇへん? 勝負をするっちゅうなら、筆箱は元に戻したる。それはあんさんが勝っても負けてもや。 せやけど、ワイが勝ったら席を交代して貰いたいんや。」 なんで戦利品が「席」何だ? と優牙は疑問に思った。 (彼も竜宮狙いなのか? だとすると、授業中でも何でもセクハラをするかもな……。) そう思うと優牙は不安になる。 アリスなら兎も角、シオンはそういう事に無頓着っぽそうなので、色々と不味いかもしれない。 最終的に優牙は竜宮は俺が守る! という風に優牙の考えはシフトしていた。 「よし、その勝負のった!」 指を指してそう宣言する優牙。 「よっしゃ、なら簡単にルールでも説明しとこか。勝敗はどっちかの投降か気絶か戦闘不能で決めや。」 言いながら星夜は右腕を体から分離させる。分離した右腕はふわぁっと空中に浮いている。 「ほな、まずは小手調べや!」 星夜の体から分離した右腕が優牙に向かって素早く飛んでくる。 すかさず、優牙はそれをかわすが、直後ガクンと直角に方向転換した右腕のパンチが腹にクリーンヒットした。 その瞬間、驚くべき事が起きた。 何と優牙が着ていた学ランが、バラバラになってしまったのだ! 「な、何だこりゃぁ!?」 四角く均等にバラバラになった服の破片はフワリ飛んで優牙から離れた後、分離している星夜の手の中で再び一つになり、元の学ランに戻ってしまう。 (何だ、一体何が起きたんだ!?) 優牙は必死に頭を巡らせる。その時ふと脳裏によぎる物があった。 (そうか、この光景、見覚えがあるぞ! あれは確か……恋ちゃんたちと初めて会った時だ! あの時も恋ちゃんのズボンをいつの間にかコイツが奪っていた。そうだ、多分今と同じ方法で……。) 「分かったぞ、キミの能力。 それは、自分の肉体と他の物をバラバラにしてしまう能力だな!?」 「お、ご名答〜♪ 気ぃつくのはなかなか早いな。 そや、ワイの能力はその名も『バラバラ』! ワイ自身の体と触れた物をバラバラに出来るんや!」 「なっ!?」 星夜の言葉に優牙は驚愕する。 「な、なんて安直なネーミング……!」 「こらっ! 驚くトコがちゃう! ま、えぇわ。ネーミングセンスが戦力には影響せんちゅう事をその身に教えたるで!」 言い終わるのと同時に、星夜は両腕だけでなく両足をも肉体より分離させ、宙に浮かせる。 バラバラになった四肢は優牙を包囲するように優牙の周囲を飛び回る。 「いくでぇ! 全方位バラバラ乱舞攻撃や!」 星夜の合図と同時に、四肢は優牙に突撃してきた。 「わぁぁっ!」 文字通り死角無しのオールレンジ攻撃。これではどうしようも無い。 だが、優牙にはある秘策があった。 「ミィ!」 優牙がその名を呼ぶと小さな長靴を履いた猫は、手足が無い達磨状態で宙に浮いている星夜の背中に、その鋭い爪をつきたてた! 「ほわぁっ!」 突然の痛みに変な叫び声をあげる星夜。すると、集中力を欠いたからか、バラバラだった手足がすぐさま彼の肉体に集結し星夜は達磨から人間に戻る。 「よし、よくやったぞ、ミィ!」 実は優牙はもしもの時に備えて予めミィを呼んでいたのだ。ミィの創造主たる優牙が強く念じれば、ミィはすぐさまやって来てくれるのである。 「なんや、この猫は!?」 星夜はミィを野良猫だと思っているらしく、追い払おうと拳を飛ばすも、素早いミィを捉える事は出来ないようだ。 「スキありっ!」 一瞬だけ背中を見せた星夜に対し、優牙が遠慮なく飛び蹴りを叩き込むと、星夜は苦痛の声を叫びながら倒れ込む。 「ちょ、何すんねん!」 当然、星夜は抗議をするが、優牙は平気な顔で「よそ見しているからだろ」と答えた。 その間にもミィはひっそりと星夜の背後に近付き、その尻に得意の爪の一閃をお見舞いする。 その隙に優牙は星夜に掴み掛かろうとするが、今度は星夜が肉体すべてをバラバラにしてそれをかわすほうが早かった。 「その猫はグルかい! ワイとしたことが、油断しとったわ!」 星夜は頭のみを残して肉体全てを細かく分離させると、優牙とミィに向かって肉片を突撃させる。 「くっ!」 「ニヤーッ!」 さしものミィも無数に飛び交う肉片を全てかわす事など出来る筈も無く、肉片の砂嵐に飲み込まれてしまう。 「どや! ワイの『バラバラ』の能力は! たかが”妙な猫を生み出す”能力なんかにゃ負けへんで!」 「猫を生み出すだけが、俺の能力じゃない!」 その声は星夜の後ろ、つまり空中から聞こえてきた。 「な……ぶっ!」 星夜は、振り向こうとした瞬間に左頬に優牙のストレートパンチを受けて吹っ飛ぶ。すると、バラバラになっていた肉片が集まって元の姿に戻った瞬間、彼は地面に激突した。 「ワイの肉片砂嵐が効かへんのか!?」 「……キミの肉片で構成されてるんだから、質量も堅さもたかが知れてるじゃないか。 ダメージなんてほとんど無いぜ。」 確かに、優牙の言う通り、無数に分離した彼の肉片では大した質量はなく、それに比例して運動エネルギーは少ない。結果的にあまりダメージにならないのである。 「でもなぁ、よう考えてみ。 「ま、まさか!」 「そう、そのまさかや! 肉片に触れるいう事は、ワイのあ〜んな所やこ〜んな所に触れとる可能性があるっちゅう事や!」 そう言って、星夜は高笑いをし、更には「エンガチョ、エンガチョ」などと囃し立てた。 しかし、優牙は動じない。 「……いや、それは無いな。 何故なら、それが本当なら俺はキミの内臓にも触れている事になる。 心臓や神経なんかの大事な器官を空気中に曝け出して無事で済む筈はないし、俺にぶつけるなんて無謀な事をすればキミはたちまち死んでしまう。 でも、キミは平気な顔をしているって事は……少なくとも断面は何かで守られているんじゃないのか!?」 優牙の指摘に、星夜は一瞬驚いているようだった。 「ほぉ、なかなかえぇ洞察力をしとるな。 確かにその通り、断面は絶対に破れへん膜で保護されとる。 ま、膜っちゅうよりは空間の壁みたいなモンやな。その部分だけ別の空間になってもうとるから、こっちの空間からは干渉できへんのや。」 星夜は優牙へのご褒美とばかりにベラベラと自分の能力について語る。 「それとな、ワイ以外の生物にはまったく適用できんねん。それが出来たらワイは一撃で相手に勝てるんやけどな。 あと、元に戻るときは絶対に戻るっちゅうのと、分離した部分同士は自由に繋げれるっちゅう特性もあるねんけど。」 「いいのかよ、そんなにベラベラ喋ってしまって?」 「構へん構へん。理屈や理論が分かっても、現実に出来へんなら、意味ないやろ!」 言うなり、星夜は青い工具箱の一部をバラして、中から何本かの大きく湾曲した棒を取り出す。 「ほな、行くで!」 湾曲した棒のうち、一本を持った星夜の右手が優牙に向かって飛来する。 「何をする気かは知らないが、させない!」 飛来した右手を容赦なく叩き落そうと、優牙が拳を振り上げる。 が、実は右手は囮であり、この時既に優牙の背後から迫っていた湾曲した棒が、振り上げた拳を脇腹に押さえつけるように飛来した。 「そこで固定や!」 いつの間にか優牙の周囲を飛び回っていた他の湾曲した棒が、優牙を囲むように集まって、一つの輪になる。 「何!?」 突然の事に優牙は驚き、焦った。何しろ、鉄の輪で体をがっちりと固定されてしまったのだから。 「棒は元々はこういう輪っかだったのか……。」 「そういうこっちゃ。言うたやろ? 理屈や理論が分かっても、現実に出来へんなら、意味ないて。」 確かに、彼は『バラバラした物を元に戻す時は絶対に戻る』とは言っていたが、まさかこういう使い方をされるとはまったくもって予想外だった。 「どや、これでまともに身動き取れへんやろ。諦めて降参し。」 |