優牙の推理は続く。
「墳射口の噴射でアンタは空を飛び、凄いスピードで突進が出来る。肩や肘に噴射口をつければ不自然な急加速でパンチを放てる。
 そして相手の殴った部分にも噴射口をくっ付けられて、相手を吹っ飛ばせるんだな?」
「正解だ。」
 優牙の推理を聞いた飛田はニヤリと唇を歪ませる。
「そう、俺の能力はその名も『特攻(ぶっこみ)ブースター』! 触れた物体にブースターを付けてソイツをかっ飛ばす! 素晴らしい能力だろ!?」
 飛田は大袈裟に手を広げて自らの能力を誇示するかのように言う。まるでこの世の支配者か何かにでもなったかのように……。
「……その能力で竜宮さんを傷付けたというのか!」
「だったら何だというのだ!?」
 まるで嘲笑うかのように唇を歪ませる飛田。優牙はそんな飛田に怒りを覚えた。
「そんな能力、俺がぶっ飛ばしてやる!」
 優牙が叫ぶのとほぼ同時。ミィが優牙の背中を駆け上がり、飛び出した。
「討てっ、ミィ!」
 優牙の掛け声と同時にミィが長靴を吐き出した。
「うおっ!?」
 これには飛田もかなり驚いたようで、長靴を顔面で受け止めた。
 その隙に優牙は蹴りを飛田の腹にお見舞いして、その場を離脱する。接近戦は危険だと判断したからだ。
「その不気味な猫が、キサマの能力か……。クックックック、そんな能力で俺をぶっ飛ばすだと……?
 笑わせてくれる。クズ能力が! 俺の能力を甘くみるなぁっ!」
 飛田はその辺に落ちていた小石を拾うと、優牙に投げ付けた。
 勿論、ただ投げ付けるのではない。小石にはブースターがつけられ、ただの投石とは思えない速度で飛来する。まさに小石ロケットともいえる攻撃だ。
(やっぱ、そういう攻撃もしてくるか……。)
 優牙にとって、小石ロケットは想定の範囲内だった。むしろ彼のパワーなら、あるいは軽自動車辺りをこちらにかっ飛ばす可能性も考えていたが、生憎この島には自動車の存在そのものが希薄だ。しかも今この辺りには小石以外はコンクリートの壁か電柱しかない。
 というわけで、優牙は小石ロケットを難無く弾く。確かにスピードは速いが、その動きは直線的。しかもロケットをくっ付ける以上回転を加える訳にもいかずに不安定極まりない。なので、優牙がちょっと弾いただけで小石はあらぬ方向へかっ飛んでいった。
 しかし、そんな事はお構いなしに飛田は再度複数の小石を放ってきた。 
 勿論、最初の小石ロケットで見切っている優牙にとっては叩き落すことなど造作もない事の筈だった。
 後から放たれた小石が、先に放たれた小石を追い越すまでは。
(しまった! ブースターの噴射を調節して速度を変えたのか!)
 優牙が弾速の違う二つの飛び道具に驚いている間に、飛田は自身の背中にブースターを取り付けて、そのまま突っ込んできた。通常ものを投げた直後は行動が制限されるのだが、飛田は手を振り下ろしたそのままの姿勢で突進、優牙の目の前に迫る頃には次の動作に移る準備は既に出来ていた。
 弾速差攻撃に手間取っていた優牙は、この飛田の攻撃に対応が間に合わない!
「ブースター掌底(しょうてい)!」
 勢いはそのままに、飛田は優牙の胸に強烈な張り手を加えた。しかもその手の平にはブースターが既にくっ付いており……張り手のヒットと同時に火を噴いて優牙を焼く。
「ガッ……ハッ!」
 張り手の衝撃と噴射による攻撃で、優牙はそのまま背中から地面に倒れる。幸い、噴射の火炎を受けた胸は焼けどなどは負ってはいなかった。『特攻(ぶっこみ)ブースター』の噴射火炎もまた、シオンやアリスのドラゴンの炎と同じく「炎に似せたエネルギー」であって、本物の炎ではないのだ。
 しかし、如何に本物の炎ではないとはいえ、高密度エネルギーの噴射を受ければ、大ダメージは必須だ。
「どうした? もう終わりか?」
 優牙を見下すようにして腕組みなどをしつつ飛田が言う。
「威勢が良かった割には大した事のない男だな……! さっきからチョロチョロしている不気味な猫も鬱陶(うっとう)しいだけで役に立たないクズだし。
 これなら、まだあの女のほうが強いぞ?」
 クックックックと唇を歪ませて笑う飛田。実際、先程からミィは独自に飛田を引っ掻いたり噛付いたり長靴を吐き出したりしてはいるのだが、飛田にはあまり効果がないようだ。
 そもそもコンクリートの道路にヒビをいれるパンチを素手で放つ男である。衝突すれば自身も大ダメージを受けるような突進を敢行したりするところから見ても、かなり打たれ強いのだろう。
(”火事場の超力(ハイパワー)”の一撃に賭けるか? アレなら、あの使い方もあるからどうにか出来るかもしれないけど……。)
 確かに筋力などを倍加する”火事場の超力(ハイパワー)”なら決定打に成り得るが……。”火事場の超力(ハイパワー)”は使えば優牙自身への反動が酷い諸刃の剣。出来る限りなら別の手段を取りたい優牙であったが、他に手はないようだった。
(あ〜、もうやるしかねぇ! ……痛いけど。)
 決断した優牙はミィに目配せする。ミィも心得たもので、飛田の顔面に向かって長靴を吐き出した。
「今更こんなもの!」
 長靴はあっさりと飛田に払われてしまうが、彼の気を逸らすためのものなのでまったく問題ない。
 飛田が目を離した一瞬の隙に、優牙は触覚から糸を伸ばして離れた位置の壁にくっ付け、自身の体を引っ張った。普通に起き上がるとそのまま飛田から攻撃を受けると思ったからだ。
 そして、反撃の狼煙(のろし)となる灰色の炎をその身に灯す。
「ムッ!? 逃がすか!」
 優牙が離脱した事に気付いた飛田はすかさず突進し、今まさに起き上がろうとしている優牙の顔面に向けて急加速パンチを放った。
 しかし、先程までとはうって変わり、パンチはかすりもしない。
「クソッ! クソッ!」
 それどころか高速ラッシュも全て簡単にかわされてしまう。
「でやっ!」
 そして優牙の放つパンチはまるで別人のもののようにとても重くて速い。
 それもその筈。
 ”火事場の超力(ハイパワー)”は筋力以外にも視覚や聴覚といった感覚をも強化させる働きがあるのだ。つまり、”火事場の超力(ハイパワー)”を使っている最中の優牙には、周囲は遅くなって感じられるのである。その代わり、痛覚さえも強化されてしまうので、痛みも強く感じるのだが。
「ヌオォォォッ!」
 一際大きく振りかぶって放たれたパンチをさっとかわし、優牙は灰色の炎を灯した拳で飛田を殴りつける。
 途端に飛田は気分が悪くなった。
 いや、むしろ体の底から沸々と湧き上がるパワーを感じるのだが……。今まで何とも無かった朝日の反射光が眩しい。靴と地面とが擦れる音、風に揺れる草木の音、小鳥の鳴き声が耳に響く。それに何だか世界がゆっくりになったような気がする。
「キ、キサマ……ッ! 俺に一体、何をした!?」
「簡単な事だ。筋力や視覚、聴覚なんかの身体能力を向上させたのさ。単純に攻撃力もスピードも二倍近くに跳ね上がっている筈だ。」
 そう、”火事場の超力(ハイパワー)”は優牙以外の人間にも使用出来るのである。
「キサマはバカか!? 敵を援護するような事を、わざわざやりやがってぇ!」
 確かに飛田の言う通りだった。現に今優牙に向かって放たれたパンチはブースターの力を借りなくとも、凄まじい速度を誇っていたのだ。
 が、折角のパンチは何かがおかしかった。
 力を込めて拳を握れば、爪が喰いこんでとても痛い。
 振りかぶろうと腰を捻れば余計にぐりんと腰が回る。
 力もスピードもさっきより格段に上がっている筈なのに、予備動作が大袈裟なせいで簡単に避けられてしまう。
「だからさ、アンタの全てが倍になってるんだって。普段通り(、、、、)パンチなんかしたら骨や筋肉を痛めるし、倍疲れるだけだ。
 慣れないうちは、兎に角手加減する事が重要なんだ。」
 優牙の説明の間にも、飛田はブンブンと腕を振り回しては、勝手に激痛に悶えていた。
「クソがぁぁぁっ!」
 仕舞いには彼は、再びブースターを装着した急加速パンチを放つも……。
「な、何ィ!? ブ、ブースターまでもが倍だとォォォッ!?」
 そう、腕に装着したブースターの出力までもが強化され、とてつもない勢いで飛田を引っ張ってかっ飛んだ。
「お〜、他の能力者に使った事なんてないからなぁ。一応、能力も倍になるんだ……。」
 腕に引き()られていく飛田を見ながら、優牙は感心していた。他の能力も倍になる、という事は色々と応用の幅が広がりそうだと思ったからだ。
「クソッ、クソッ、クソッ! お、俺は、”ロケット番長”だっ! こ、この俺がこんな、クズ能力にっ! 負けるなどぉぉっ!」
 怒り狂った飛田は、背中全体にブースターを展開。一気に開放して凄まじい速度で優牙に体当たりを仕掛けてきた!
「うわっ」
 流石にこれは飛びのいて避けるのが精一杯だった。あまりに速過ぎて、強化された視覚でも追い切れないのである。
 いや、それだけではない。何か体中から力が抜けていくような感覚を優牙は感じていた。
 優牙にかわされてしまった飛田は、今度は自身の体の正面にブースターを展開、それによって急ブレーキをかけ同時に方向転換をして再度優牙に突撃した。
「オイオイ! そんな速度で体当たりなんてかましたら、そっちの体ももたないぞ!? いや、それより激痛で精神が……うわっ!」
 優牙の言う通り、体当たりである以上、飛田も無事で済む筈はない。しかも感じる痛みは倍。想像を絶する痛みで精神に悪影響がでる可能性もある。
 しかし、飛田にとっては最早そんな事はどうでも良かった。普段の倍の情報量を受け取った頭は、既に冷静さを失っていたのかもしれない。兎に角、目の前に居る優牙を……。
「かっ飛ばすゥゥゥッ!」
 もぅ、それしか頭に無かった。
(あ〜、もう、完全にキレちゃってるなぁ……。にしても、この脱力感は何だ……? あっ!)
 優牙は自身の胸と右手に奇妙な輪っかのようなものがあるのに気付いた。そして輪っかの中心から輝く”何か”を噴出しているのを目撃する。
 突撃してきた飛田を何とかかわし、推測を続ける。
(もしかして、別のブースターか? この噴出している輝きって、もしかして俺の体力とか!?)
 優牙の推測は正解だった。
 飛田の能力コンセプトは『噴射口(ブースター)』。
 普段、彼が相手や自分にくっ付けるブースターは、飛田自身が与えたエネルギーを噴出している。
 が、今優牙の体にくっ付いているブースターは違う。このブースターは「くっ付いている物体が持つエネルギーを燃料にする」ブースター、その名も『ドレイン・ブースター』だ。
 ただ、この『ドレイン・ブースター』は燃費が非常に良くて超低出力。オマケに発動させるには飛田自身、相応の体力を消耗する、まさに奥の手である。
 その奥の手を受けた優牙は次第に疲弊(ひへい)していく。精神力も体力も次々に削られ、だんだん朦朧(もうろう)とした感覚が優牙を支配していく……。
「クッ、こ、このままじゃ……。」
 体勢が崩れたところに飛田の特攻攻撃が迫る。
 最早、このまま直撃以外の選択肢はないようだった。

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