「……ここまでか!?」
 目の前に迫った飛田を膝をついて見つめる優牙。直撃を覚悟した瞬間、優牙の背後から飛び出した紅蓮の炎が飛田を包み込んだ!
「ガァァァァッ!」
 炎に押された飛田は、思わず突撃をやめて熱さに身を悶えさせる。
「……もしかして……。」
 パッと後ろを振り返ると、一匹のドラゴンが大きな口を開けて火を吐いていた。
「優牙くん、今のうちに……ッ!」
 竜宮シオンだ。
 いつの間にか気絶から復活したらしく、飛田を止めてくれたのである。
「このクソアマァァァッ! キサマらまとめてかっ飛ばしてやるゼェェェェェッッッ!」
 ドラゴンの炎をブースターで無理矢理振り払い、飛田は渾身の力を込めたブースター付きパンチを放つ!
 しかし、優牙のほうが速かった。
「かっ飛ぶのは、アンタのほうだ!
 倍倍(ばいばい)パンチッ!」
 優牙が放った渾身の一撃は丁度クロスカウンターの要領で、飛田の腹に直撃。
 優牙の腕力の倍+飛田自身のパンチの勢い+”火事場の超力(ハイ・パワー)”による効果で痛みは倍。そしてその強烈さ故に相手の肉体と意識は遥か遠くまでバイバイしてしまう。だからこそ、その拳の名は『倍倍パンチ』。
 凶悪ともいえるパンチを受けた飛田はそのまま何処か遠くへかっ飛んで行った。

「痛ってぇ〜!」
 飛田を殴り飛ばした後、”火事場の超力(ハイ・パワー)”の効果が切れて、優牙の全身を激痛が走る。
 ”火事場の超力(ハイ・パワー)”によって増幅されていた痛みは、脳内麻薬の作用(念の為説明しておくと、人間が限界を超えた痛みを感じたとき、脳内分泌物の作用によって痛覚が一時的に麻痺するのである)で無痛となっていた。が、”火事場の超力(ハイ・パワー)”の効力が消えた今、限界ギリギリの痛みが全身を貫いているのである。あまりの痛さに、優牙は地面でゴロゴロと悶えている。
「大丈夫?」
 シオンが心配そうに優牙の顔を覗き込む。だが、優牙は痛みで口を金魚のようにパクパクさせるだけ。
「ちょっと待ってて。」
 そういうとシオンはドラゴンに合図を出す。するとドラゴンが優牙の顔をペロペロと舐め始めた。
「あ、あの……。」
 よく状況が掴めず、困惑した顔で動きを止める優牙。
「心配しないで。リューイチの唾液には多少だけど回復効果があるの。」
「そ、それはどうも……。」
 いつの間にかミィまで優牙の体をペロペロと舐めていた。制服が汚れるからやめてくれともいえないので、しばらく優牙はドラゴンと猫に舐められていた。
「あ、あのさ。どうしてアイツに襲われたんだ?」
 ふと優牙が疑問に思っていた事を口にした。
「リューイチに乗って空を飛んでいたら、突然ぶつかって……。それでどっちがぶつかってきたか、で揉めてたら、いきなり飛ばされちゃって。
 まぁ、よくある事だけど。」
「いやいやいやいや、あんな超常現象バトルが『よくある事』で済まされちゃ、たまらないぞ。」
 驚く優牙に対し、シオンはキョトンとしていた。
「そう? この島では日常茶判事よ。慣れてくれば、違和感無くなるわよ。」
 確かに、慣れというのはあるかもしれない。が、優牙はあまり慣れたくなかった。
「あ、あと一つ質問。
 学校には行かないのか?」
 シオンの服装は制服ではなくて、私服だった。白地のシャツに灰色のロングスカートと、地味目な服装である。
「今日はいい天気ね。」
「ってスルーかよ!」
 しかも今日は曇り空で、晴れ間など一切無い。
「……。」
 見事に優牙に突っ込まれたシオンは、何か答え難そうな表情をしている。
「? 何か答えたくない事なのか?」
「……そうでもないけど……。……笑ったりしない?」
「笑わない、笑わない。」
 優牙の答えを聞いたシオンは、胸に手を当て一度大きく深呼吸。
「あのね、病院に行くところだったの。」
「え? 病院って? 何処か具合が悪いとか?」
「あ……。そうじゃなくて……。例の……なの。」
 シオンの中途半端な返事にますます疑問が深まる優牙。具合が悪い以外の理由で病院に行く必要があるのだろうか?
「んー、ちょっと分からないんだけど?」
「……私とアリスの関係は?」
 何か見兼ねたシオンは思い切った表情でそんな質問をした。
「え? そりゃぁ、多重じ……。あ、そうか! 精神びょ」
 思わず大きな声を出す優牙を嗜めるように、シオンが優牙の上唇を人差し指と中指で止める。
「あ、ゴメン。」
 ようやく優牙は理解した。
 確かに、精神病院に行くと言うのは自ら『私は心の病です』と打ち明けるようなものだ。人前でそんな事を晒されるのは、恥ずかしいのだろう。
 そして優牙は納得もした。
 多重人格というのは普通、本人は気付かない事が多い。だが、彼女たちは自分たちの関係についてちゃんと理解していた。これは第三者が彼女たちに事実を伝えたという事に他ならない。つまりは専門の医師が彼女たちの病状について詳しく説明したのだろう。
「でも、本当に今日は運が良かった。気絶してもアリスが出てこなかったから、ちゃんと行けるわ。」
「アリスだと、病院には行かないのか?」
「だって、治るという事は、アリスは消えるのよ? アリスはそれを望んでいないから……。」
 そういわれてみればそうだ。誰だって消えたたくなんか無い。アリスのささやかな抵抗も、その意思の表れなのだろう。
「ところで……。優牙くんは、学校に行かなくていいの?」
 シオンに言われてハッと気付く優牙。彼は学校へ行く途中だったのだ。
「一時間目は野乃島先生よ。急がないと……。」
「あぁーっ! やっべ、謎のミサイルで吹っ飛ばされる!」
 二人の担任教師は野乃島鳳香。28歳にして身長は138cm・幼児体型だが、性格は姉御肌・やる事は豪快という何とも奇妙な女性教師だ。そして特殊能力『missile pod』の破壊力は優牙も既に体験している。
「じゃ、俺行くわ。シオンさん、もうからまれたりしないよう、気を付けて!」
「えぇ。優牙くんも、気を付けてね。
 それと……助けてくれて、ありがとう。」
 優牙はシオンの微笑みを受け取ると、すぐさま学校に向かって駆け出した。
 結局、学校に着いたのは一時間目が終わった直後くらいだった。
 そぉっと教室に入ろうとしたところを、運悪く野乃島先生に見つかってしまい……。
「おー、夢路。転校早々サボリかぁ? あぁん?」
 そのまま廊下の隅まで連行されてしまう。
「……と、いうワケなんですよ。」
 信じて貰えるかどうか疑わしかったが、優牙は一応説明をしてみた。鳳香は黙って聞いていたが、優牙の説明が終わると大きく溜息をつく。
「ったく、面倒な事しやがって……。飛田のヤロー、後でぶん殴ってやる……。」
 鳳香は顎に手を当て、虚空を睨み付けながら何事かブツブツ言った後、優牙に向き直ってこう言った。
「夢路、お前は保健室で寝てていいぞ。」
「へ? いや、授業は?」
「飛田とやりあったんだろ? お前、ボロボロじゃないか。だから、しばらく休んでてもいい、って言ってるんだよ。他の教科の先生にはアタシから言っとくから。」
 確かに優牙の服は闘いでボロボロだった。しかし、優牙には他人にはない高い自己治癒能力を持っている。だから、もう傷なんてほとんどない。……痛みだけはまだ体の奥で(うず)いてはいたが。
 その事を鳳香に伝えると、大丈夫なら勝手にしな、という返事が返ってきた。
「あ〜、それとさぁ、この際だから教えておくけど。」
 頭をカリカリと掻きながら、鳳香は言う。
「この島と『Day Dreams』との関係について。」
 そして先生は神妙な顔付きで、生徒に説明を始めた。

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