『Day Dreams』……優牙はその単語に聞き覚えがあった。確か、飛田もその単語を口にしていた筈だ。
「この島には特殊な能力を持つ人間が集まってるのは知ってるな?」
「ハイ。」
「でもなぁ、この島に集まってんのは、能力者だけじゃないんだよ、これが。
 地脈っていうか、磁場っていうか……何かよく分かんないエネルギーまで集まってきてんだよ。」
 鳳香の説明はこうだった。
 この島――夢源島は、地形や磁場の関係上、未知のエネルギーが集合する場所だという。更にそのエネルギーが集結する事で、この島は様々な出来事を呼び寄せる世界でも有数の「特異点」と化しているらしい。その影響からか、この島で生まれる子供はほとんどが能力者だし、外部からも能力者が集まってくる傾向にある。
 そして、この島で実権を握るという事は、その未知のエネルギーを手中に収める、といっても過言ではないという。
「で、『Day Dreams』の奴らは、現在島を牛耳ってる勢力『夢見会』の対抗勢力ってワケ。つまりは大人のバカげた勢力争いってヤツさ。
 勢力争いっつーても、現勢力である『夢見会』と『Day Dreams』、後は少数の中立軍だけなんだが。
 それで昔は汚い大人の策略ってヤツで能力使って殺し合いするわ、テロみたいな事をするわ、ヤクザも真っ青の抗争をやってたんだけど……。流石にそればっかりだとヤバイだろ?
 だから、両方の組織で話し合いの結果、取り決めがあって、それで決まったのが――。」
 一つ、能力者として優れている者が、島の行政管理をする重役になれる。
 一つ、優れた能力者を決める方法は、島をあげてのスポーツ大会などの行事、もしくはルールに則った決闘によってのみ決める。
「って、事。これで物騒な揉め事は無くなったんだが、代わりに能力を使った決闘モドキが流行しちまってなぁ……。
 飛田みたいな過激派のバカ共が自分が優れているコトを見せ付ける為に、テキトーな理由で因縁付けて決闘にこじつけてるってワケ。」
「で、俺はそれの被害にあった、と。
 ていうか、先生も大人じゃないですか。汚い大人とか言っちゃっていいんですか?」
 体は小さいけど――その言葉は必死に飲み込んでおいた。
「アタシはいいんだよ、キレイな大人だから。」
「自分で言いますかぁ? 普通。」
「うっさいっ。妙なところ気にしてんじゃねぇよ。」
 話を聞いた優牙は随分と物騒なところだ、と思った。そもそも島の実験を握って未知のエネルギーを得て何がしたいのだろうか? 未知のエネルギーを得ると神様にでもなれるのか? 優牙は今思い浮かんだ疑問をそのまま鳳香に聞いてみたが。
「知らない。アタシ、中立軍だし。だから、知りたくもねぇ。」
 という答えだった。
「中立”軍”ですか……。何か物騒ですね。」
「そう、軍。アタシの能力者としての仕事は、たまーにやり過ぎて大暴れするバカをボコって、反省させるんだよ。
 他にアルフレッドとかが中立軍の外交担当だな。」
 豪快というか何というか……先生のイメージにピッタリだ、と優牙は思った。
「あの……なら、それぞれの勢力の名簿とか、あるなら見せて頂けませんか? 出来る限り『Day Dreams』には関わりたく無いですし。」
 優牙の頼みを聞いた鳳香は、顔をしかめる。
「『Day Dreams』って言っても、全員が全員、飛田みたいな過激派じゃないんだよ。それこそ、お隣の奥さんが実は! みたいに、ただの主婦も居るんだよなぁ。『夢見会』側にだって超過激派のアホゥは居るんだし。
 だから、最初っから色眼鏡で見るつもりなら、教師としてリストは見せられないね。」
「そうですか。分かりました。」
「あ、それと。お前が飛田を倒したって事はあんまり他人に話さないほうがいいぜ。」
 鳳香は、優牙に耳打ちするように告げた。しかし、彼女の身長はとても低いので、優牙は膝を折り曲げなければならなかったが。
「どうしてですか?」
「飛田はなぁ、ああ見えても、『Day Dreams』じゃ中の上くらいには強いヤツなんだよ。
 それを引っ越してきたばっかりの能力もロクに知らないお前が倒した。……どういう事か分かるか?」
 優牙はしばらく考えてみたが、よく分からなかった。
「さっきも言った通り、過激派の連中は何かと自分の力を誇示したがる。
 その為には強いヤツとやりあって勝つのが手っ取り早いだろ? でも、相手があまりに強いと自分が返り討ちにあう可能性が高い。
 だから、そこそこのヤツが狙い目なんだよ。」
「成る程。飛田はそこそこだから、それを倒した俺もそこそこ強い筈。でも俺はあんまり能力を知らないから倒せる可能性が高い。だから狙われる、って事ですね?」
「そうだ。しかもお前は城井とも闘って一応、勝ってる。城井もそこそこって評価だからなぁ。
 取り合えず、どっちかに所属しておけば、味方からは狙われないんだけど、どうする?」
「先生のオススメはどっちですか?」
 まだ島に来たばかりの優牙は両組織の特徴など分からなかった。
「アタシのオススメ? んー、アタシはどっちとも好きじゃないんだけどなぁ……。他人に聞くより、自分で選んだほうがいいぞ。」
「そう、ですか……。
 じゃぁ、まだどっちにも所属しません。」
「んじゃ、目立たないようにするしかないか。」
 以前、シオンからも『この島で慎ましやかに生きるには、無関心になって強くても弱いフリをする事』というアドバイスを受けていた。当初は何の事かさっぱりだったのだが、今その意味が分かった。バカな勢力争いに巻き込まれない為のアドバイスだったのだ。
 と、ここまで話したところで、チャイムが鳴ったので、優牙は鳳香と分かれて教室に入っていった。

 ――優牙と鳳香が話をしていた頃、とある建物の屋上にて。
「あ〜ぁ、負けてしまいましたね、飛田さん。それも相手は島に来たばっかりでロクに能力を経験していない、素人だなんて。」
 少女のような少年は、ボロボロになって倒れている大男を見下しながら言う。
 少年の隣では、赤い髪の少女がサッカーボールをリフティングしていた。
「僕らが見つけなければ、どうなっていたでしょうね? 過激派を嫌ってる人って結構居ますからねぇ。下手をすればリンチなんて事もありますし。
 何にせよ、ロケット番長なんて名乗ってるのに、転校生に殴り飛ばされるなんて。『Day Dreams』って弱いなんて思われたらね、僕らも困るんですよ。」
 たたみかける少年に対し、飛田は顔をしかめて大きな咳をする。
「あの、ユメジって野郎、能力のコンセプトが、全然分からなかった……。猫を操ったかと思えば、自分や他人の感覚を倍にしたり……ヤツは普通じゃねぇ……。」
「普通じゃないのは、当たり前ッス。あっしらは、そういう人間なンスから。」
 そう答えたのは、リフティングをしている少女だ。話をしながらも華麗にリフティングを続ける様から、彼女の技術の高さが伺える。
「まっ、敵なのに色々と教えてくれてありがとうございます。それじゃ。」
 それだけ言うと、少年と少女はその場を立ち去ろうとする。
「ま、待てっ! 待ってくれ! あんなヤツに負けたんじゃ、『Day Dreams』で過激派なんてもう出来ねぇ! お前ら、『夢見会』のほうに口添えしてくれないか?」
 飛田は起き上がれないらしく、首だけを二人の背中に向けて叫んだ。
「えっと、中立軍が探してるみたいなんで、僕らじゃ何も出来ないです。
 無理に突っ張らずに、過激派なんてやめてまるくなったらどうですか?」
 振り返りもせずに言い放たれた少年の言葉に、飛田は恐怖した。
「ちゅ、中立軍だと!? 何故中立軍が動く必要があるんだ!?」
「先輩はやり過ぎたンス。竜宮先輩を問答無用で襲ったり、それを庇った転校生に傷を負わせたりしたそうじゃないッスか。
 決闘のルールに違反してるッス。」
「そうそう。決闘ルールを超えちゃったら、中立軍が動くのも当然ですよ。
 これだから、力だけで解決できると思ってる過激派は……。」
 少年はやれやれ、といった感じで溜息をついた。
「お前たち姉弟だって過激派じゃねぇか! 俺の同胞を()めて……」
 飛田の言葉を遮るように少年が振り返る。
「うるさいなぁ。僕らは過激派じゃないですよ。
 それにね、姉さんは不正が大っ嫌いなんだ。相手を嵌めて勝って、何の意味があるんです?」
「そんな勝利に、意味なんか無いッス!!!」
 二人はそれだけ言うと、学校の屋上から立ち去った。
「で? 実際どうします、姉さん。
 夢路優牙って人、なかなか面白い能力者かもしれませんね。」
「そうッスねぇ……。まずは明日の夕方にでも闘ってみるッス。結論はそれからッス。」
 大江戸春夏と大江戸秋冬。『夢見会』に所属する二人の姉弟の次なる標的は、既に決まったようだった。

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