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昼休み。 優牙はある疑問を尋ねるべく、一人の男に声を掛ける。 「なぁ、能力って、絶対に名前をつけなきゃいけないのか?」 「ん? 別につけんでもええんちゃう? ただ締まらん事は確かやな。」 優牙が尋ねた相手は城井星夜だ。転校初日に決闘なんて事をした相手でもあるが、何故か意気投合するものがあって、優牙としては話し易かった。 「あぁ、でもこの島で店の会員証とか作ったり、色々イベントに参加するときは必要になってくるな。 公的文章だっけか? 役所で発行されてる専用用紙もあるし。」 そう答えたのは別の男、 「ふ〜ん。いやさ、皆が皆『俺の能力は○○だぁ』ってわざわざ名乗ってるから、何か意味あるのかな? っと思って。」 「名乗ったほうがそれらしいねん。」 「そうだな、正義のヒーローがポーズを決めたりするのと同じようなモンだな。」 と、そうした会話をしながら一緒に昼食を食べようと手作り弁当を机に置いて空いた席に座ろうとすると……。 「ねぇ、優牙くん。」 突然背後から声を掛けられて、優牙は振り返る。 優牙の背後に佇んでいたのは、コンビニの袋を両手に提げている制服姿の竜宮シオンだ。 彼女は少し恥ずかしそうに指をモジモジさせ頬は少しばかり紅潮している。 口を少しだけ開けたり閉じたりして何かを言いたそうにしている。 「……あの、ね。」 やっと安定した口の動きが紡いだ言葉は。 「一緒に昼食を食べない?」 もう精神病院の診察を終えて登校してきたシオンが、突然優牙と一緒に昼食を食べようといいだした。 だから二人は一緒に学校の屋上で昼食を食べている。――二人のオマケと共に。 「いやぁ、竜宮はんと一緒に昼食を食えるなんて感激やわぁ。ホンマ、ワイの愚息がさっきからビンビンやでぇ。」 「そんなお前の息子にパンチ!」 「ワーオッ! 感じるゥゥゥ……って男に触られたないねん! でも今のが竜宮はんからの一撃と思うと、ワイはワイはっっっ!」 オマケの星夜と太郎はずっとこんな調子で喋っている。星夜が下品な下ネタを連発し、太郎がそれを抑止するという、漫才にも似た連携を繰り返す二人。恐らくいつもこんな調子なのだろう。 実際、二人のやりとりを注意深く観察していれば、ひたすら下ネタに持って行きたがる城井星夜の暴走を太郎が上手く制御してお笑いに仕立て上げているのが分かるだろう。星夜一人ではただのセクハラ発言で、太郎一人ではただのツッコミ。上手くバランスが取れた組み合わせなのだ。 しかし、優牙には漫才コンビの観察などという潰せるような暇は無い。 理由は自身を昼食に呼び出したシオンと無言の会話をしているからだ。つまり、二人にとって星夜と太郎の漫才など、聞き流すべき雑音でしかない。雑音でしかない筈だが……シオンの仕草を逐一ピックアップしてエロトークに仕立てようとする星夜のせいで、よりいっそう話し辛くなっているのも事実だ。 特にシオンは星夜が放送禁止用語ギリギリの単語を連発するたびにピクッピクッと耳を動かして頬を赤く染めて反応している。 もしも、これがアリスだったなら――と優牙は想像している。 もしも、竜宮の今の人格がシオンではなくてアリスであったなら――そもそもアリスは優牙を嫌っているようなので、昼食に誘うという事もしない可能性が非常に高いので前提からして間違っているわけだが――エロトークを続ける二人に怒ってドラゴンの炎で焼き払うのだろうか? それとも自ら参加するのか? いや、シオンと同じように恥ずかしそうに聞き流すだけだろうか? 何となくだが、優牙はアリスはシオンと同じ事はしないような気がした。 出会ってまだ四日目。確かに非日常的な日常を二人は過ごしたのだけれども、特に親密な仲になったワケでもない二人。現実に二人の座る距離がそれを雄弁に物語る。 シオンの右隣に優牙。優牙の右隣に太郎。太郎の右隣には星夜。シオンのすぐ隣に座らせたなら特攻してしまいそうな星夜を最も離れさせる配置。恐らくはこの配置も太郎の抑止手段の一つ。さり気無く、女性の敵を遠ざけるように彼は座っているのだ。 まぁ、星夜が自身の能力『バラバラ』を行使すれば距離はあまり関係なさそうだが、今の所そういう実力行使は無い。 「あの……。」 恥ずかしさからか無言でコンビニ弁当をパクついていたシオンが意を決したように優牙の顔を見る。 「朝、助けてくれたお礼をしたいんだけど……。」 「告白や! お礼に今日の夜はあなたの好きにしてン、って事になるんや! 良かったなぁ、優牙! そん時はワイも呼んでぇな。一緒に3Pと 頭の中を桃色に染めた男が一人、いきり立つ。そいつのせいで場の空気は最悪だ。 シオンは、「そういうのじゃないから」と呟いてまた俯いてしまう。分かっているとはいえ、キッチリ否定されるとちょっぴり悲しい優牙であった。 結局、その後も桃色に暴走を続けるセクハラ王のお陰で、優牙とシオンはほとんど会話が出来なかった。 「ちょっといいかしら。」 次にシオンが話し掛けてきたのは放課後である。 「お昼も言ったけど、お礼がしたいの。何がいいかしら。」 「お礼なんていいよ。当然の事をしたまでだし。」 「それだと私の気が済まないの。何でもいいから言ってみて。」 一瞬、”お金”という選択肢が優牙の脳裏を過ぎるが、流石にそれは頼めないだろうと考え直す。でも正直何もないしなぁ、と思っている時である。 彼に突然 「エロい事や。エロい事頼んでみ。」 おぉ、神よ! なんと賢明で素晴らしい答えでありましょうや! それでは早速、『お礼はキミの体で』、と……。 「……って関西弁の神が居るかぁっ!」 耳元で囁く人物に肘鉄を打ち込む優牙。その人物は鼻血を吹きながらもんどりうって倒れた。 「うぅ、やるなぁ優牙。敵ながら天晴れな肘鉄や。ちゅうか、神って何や?」 その男、星夜は鼻を押さえながらよろよろと立ち上がる。 「いやぁ、男が女にする頼みごとといやぁエロい事と相場が決まっとるやないかい。」 星夜の言い分に、優牙もシオンも呆れ顔だ。 「あんたの頭にはそれしか無いのか!?」 「残念ながらそうなんだ。」 いつの間にか星夜の背後に現れたのは平 太郎である。 「恐怖の年中発情男、それが城井星夜さね。」 言いながら、さり気無く口を塞いで星夜を腕を捕まえる。まるでプロの暗殺者のような手際の良さであっさり星夜を押さえつけた太郎は、目配せで二人に「こっちは任せてくれ」と合図を送った。 「で、お礼は何がいいかしら?」 口を塞がれながらも必死で何事か(ていうかここでは書けないような単語)を叫ぶ星夜を無視して改めて聞いてくるシオン。そこで優牙はちょっぴり気になっていた「ある事」を聞いてみた。 「一つ聞きたいんだけど、食事はコンビニ弁当が多いのか?」 「ええ、そうだけど。それがどうかしたの?」 それならば、と優牙の答えは決まった。 「じゃあ、お礼に買い物に付き合ってくれないか?」 「オトナのオモチャを買いにぃぃぃっ!」 世界は一瞬、確かに止まった。 場の空気を最悪なものにしたのは他ならぬ星夜である。彼は非常に満足そうな表情で周囲を見渡す。 「ハ〜イ。じゃあ、歯ァ食いしばろうかぁ。」 言いながら太郎は星夜を背後から抱きしめるように拘束し、そのまま上体を反らす。 ――ジャーマン・スープレックスというプロレスの投げ技だ。 「あべしっ!」 頭を床で強打した星夜はそのままグッタリと気絶する。 「じゃあ、俺はコイツを押さえとくから。」 気絶した星夜を肩に担ぎ、太郎は何事もなかったように立ち去る。 「それで、何で買い物なの?」 「ん? あ〜、何なら俺が弁当とか作ろうかなぁと思ってさ。その為の買い物。」 イキナリ突拍子も無い事を言い出す男は星夜の他にここにもう一人居た。何故コンビニ弁当を多用しているからといって一介の男子高校生が女子高生の為に弁当を? 普通は逆じゃないのか? 「コンビニ弁当ってのは塩分も多いし、値段が高めなんだ。それに合成着色料なんかも色々使ってるしな。何よりヘルシーなんて言って置きながらその実安い外国産のよく分からない材料を使ってる。 でも俺の手作り弁当は違う。素材は厳選されたものだけを使うし、希望すればヘルシーダイエットメニューからスーパースタミナメニューまで何でも作ってみせる。それに……」 ――愛が詰まってるし。 あまりに突拍子も無い告白に、まだ教室に残っていた生徒たちが一斉に騒ぎ出した。 シオン、耳まで真っ赤っか。 「……あの、優牙くん。私たち、まだ出会って間もないし、そういう事はもう少し段階を踏んだ方がいいと思うの。」 シオンの台詞にようやく自分が何を口走ったか気付く優牙。優牙も耳まで赤くなる。 「エ、エロや! エロい事や!」 遠くで星夜の叫び声があがった気がした放課後の一コマであった。 |