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事実、子供が能力者だったから、世間から逃れるようにこの島に引っ越してきた一家というのは多い。 それなのに何故、自分は一人この島で暮らしているのか? やはり両親は自分を捨てたのではないのか? 自分が恵まれているほうだとは分かっている。奇形と分かったら堕胎する親が居るのも知っている。育て切れなくてコインロッカーに捨てる親が居るのも知っている。……自分の両親がそうでない事も知っている。 それでもやっぱり、何で? と思う。……ナンデ、ボクハヒトリナノ? と。 「……やっと見つけた。」 声に恋が振り返ると、息を切らした優牙がそこに立っていた。どうやら恋を探して走り回ったらしい。 「あぁ、ここはいい眺めだ。」 優牙は突然走り去った恋の事情などに一切触れず、その隣に立った。恋が膝を抱えて座っていたのは、島唯一の山の頂上付近。町が一望出来る場所だった。 「うん。ここからだと町がよく見えるからね。お気に入りの場所なんだ。」 しばらくの間二人は沈黙し、そのまま景色を見ていた。 「本人の承諾なしに色々聞くのはアレかなー、と思ったけど……色々聞いたよ。」 先に口を開いたのは優牙だった。ちょっとだけすまなさそうに真剣な顔で言葉を続ける優牙。 「それで……まぁ偶然アルフレッドさんにも会ったから、あの人からも色々聞いた。」 駆楼都と恋の戦いの後、恋が自宅に帰っているかもしれないと思った優牙たちは一旦アパートに戻っていた。勿論、そこには恋は居なかったのだが、偶然にもアルフレッドに遭遇し、彼からも恋の事情を聞いていたのだ。その後、三人バラバラになって恋を探しに出て今に至る。 「……あのね、この麦藁帽子はね。」 優牙が一瞬黙り込んだとき、恋が優牙の言葉を遮るように喋り始めた。 頭に被った古びた麦藁帽子を風に飛ばされないよう、ぎゅっと両手で押え付ける。 「お父ちゃんとお母ちゃんから貰ったものなの。」 優牙は何と声を掛けていいか分からず、黙って恋の話す事を聞く事にした。 「この島に来てから唯一貰った、お父ちゃんとお母ちゃんからの、贈り物。形のあるもので貰ったものって、これだけなんだよね。」 だから、季節に関係なく常にこの麦藁帽子を恋は被っている。 だから、不用意にこの麦藁帽子に触れられる事を恋は嫌う。 「でもね、ボクは、こんなものより一緒に住んで欲しかったな。」 それが我侭だというのは分かっている。でも、それだけが恋には分からない。 両親が自分を愛しているのは明白だ。それなら、何故一緒に住まないのか? 一人暮らしを始めた本当の理由も、「両親と同じく貧乏な暮らしをすれば、分かるんじゃないか」という思いがあった。が、結局一年経ってもよく分からない。 ――大人はいつも子供が本当に欲しいものを決定的に間違えていると恋は思う。 「……本当は、こういう事は部外者が言うもんじゃないとは思うケド……。」 それっきり黙り込んでしまった恋に代わり、優牙が口を開いた。 「援助金、ご両親は受け取らなかったんだってさ。」 それは優牙たちがアルフレッドから聞いた、新事実。 「アルフレッドさんが言うには、援助金を送ったら受け取れませんって返されたんだって。そのお金で恋ちゃんに何か買ってあげて下さいって。でも、それを買うのは貴方方の役目だって、アルフレッドさんは押し返したらしい。 それで、ご両親は、恋ちゃんの将来の為に援助金を貯金してるそうだ。」 それだけなら、ただのちょっとした美談だ。だが、恋の疑問は次の言葉で氷解する。 「ご両親、危ない業者に借金があるんだってさ。だから、恋ちゃんを巻き込みたくなかったんじゃないかな?」 それは、単純な事だった。恋を守る為に自分達から恋と距離を置いたのだ。 「…………。」 恋は優牙の言葉に目を丸く見開いてそのまま硬直してしまった。当然だ、恋はそんな事今の今までまったく知らなかったのだから。 しかし、恋の硬直はほんの数秒間で解けて、その心には再び冷めた感情が浮かぶ。 大人はいつも子供が本当に欲しいものを決定的に間違えていると恋は思う。 「……ボクはね、家族っていうのは一緒に笑って一緒に泣いて一緒にご飯を食べて一緒に苦労して、一緒に一緒に何でもするものだと思うんだ。」 「だから、納得いかない?」 「そうかもしれない。」 そして二人に再び沈黙が訪れる。 優牙の沈黙は、何かを思案するかのような沈黙。 恋の沈黙は、悲しみの沈黙。 「じゃぁさ」 先に沈黙を破ったのは優牙だった。彼は何かを思いついたのだ。 「俺がキミの家族になるよ。」 三度訪れる沈黙。 「え?」 優牙の言った言葉がよく理解出来ず、思わず声を上げる恋。しかし、声を出した直後に、何かが頭の中で繋がってその言葉の意味を導き出した。 プロポーズ。 そして恋は夕焼けよりも赤く頬を染めた。 「あ、いや、プロポーズとか、そういう意味じゃなくて!」 赤くなってぽぅっとしている恋に気付き、優牙が慌てて否定する。 「いやぁ、何と言うか、その……人類皆兄弟というか……。折角隣近所なんだし、一人暮らし同士だし、お互いにこう助け合って……はちょっと違うか。」 自身がよく分かっていない事を説明しようと必死になっている優牙を見ているうちに、恋はだんだん自分の悩みがバカらしくなってきた。 それは悩みを打ち明けた事による開放感からか、優牙の好意を受けたからなのか、優牙が言いたい事が何となく伝わったからか、よく分からない。よく分からないけど……。 「あははは、優牙ニィ、そんなにボクと結婚するのヤなの? ボクはそんなにヤじゃないよ?」 笑顔で冗談を言う恋を見て、優牙も一安心したようにふぅと一息漏らす。 「それはどうも。」 そして二人は笑い合う。 美しい夕焼けの中、幸せそうな笑顔で。 「けけ、結婚!?」 偶然優牙と同じ場所に恋を探しに来た駆楼都は、二人が話をしているところに出くわした。 何だか出て行くタイミングを誤ってしまい、その場で話を聞いていると、「家族になって欲しい」とか「結婚」などの単語が飛び交い、挙句二人で楽しげに笑い合う始末。 優牙とかいう高校生が越してきてからまだ四日しか経ってない筈なのに。いやいや、二人とも島に越してくる前からの知り合いかもしれない。ていうか結婚は、女は16歳、男は18歳からだから、まだ後数年間は無理。婚約って事か? どうしよう、恋を想う一人の男として潔く諦めて能力で指輪の一つでも祝いに差し出すべきだろうか。それとも今この場で玉砕覚悟で飛び出し、告白するか? 恋敵を殺して埋めるのと、恋と心中するのはどっちがいいだろう。 などと”一方的な想像(他人、これを妄想という)”に身悶えする駆楼都。その時に不用意に立てた音によって、恋が彼の存在に気付く。 「……駆楼都、クン……。」 先程の闘いの事もあってか、咄嗟に身構える恋。どうしようかと迷う駆楼都。そんな恋を優牙が手で制する。 「まぁ、待って恋ちゃん。金沢、話があるんだろう。自分の口から言わないと。」 そう言われても、駆楼都の頭の中は今色んな事がグルグル回っていて、完全なパニック状態である。そんな頭でマトモな思考が出来る筈もなく、結果として物凄く珍妙な台詞をのたまった。 「け、結婚なんて、父さん許さないからな!」 三人に訪れるのは絶対零度の完全なる沈黙。 「……。」 「……。」 「…………え、え〜と、父さんって?」 優牙は取り合えずツッコんでみた。 「…………勢い。」 再び訪れる絶対零度の沈黙と時間が停止したような静寂。 「……ぷっ、あははははは!」 突然、堪え切れなくなった恋が吹き出した。 「うははははは、ははははは!」 恋につられて優牙も笑い出す。面白くないのは駆楼都だけだ。 「わ、笑うな、庶民! ちょっと言い方が変になっただけだろぉ!?」 しかし、二人の笑い声は止まらない。 綺麗な夕焼けを背景に、三人はとても幸せそうなやり取りを繰返すのだった。 |