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熱血! 最強? 大江戸姉弟

「決闘をするッス!」
 突然だが、優牙は決闘を申し込まれた。当然、その答えは、
「は?」
 である。何故なら、優牙は今学校に登校している真っ最中だからだ。現在四月三十日の朝七時半頃、優牙が引っ越してから五日目である。場所は通学路脇の人気の少ない空き地だ。
「正式な決闘の申し込みッス! 勝負するッス!」
 優牙に決闘を申し込んだ人物は、どちらかと言えば少年のような人物で――右手にサッカーボールを抱え、左手には野球のグローブを着用し、ランニングシューズを履いており――春先の季節には肌寒そうな半袖T-シャツにスパッツ、額にはハチマキという動き易そうな格好。傍らには大きなドラムバックが置いてある。
 トゲトゲした感じの短い赤い髪にキリリとした目。怪我でもしているのか、鼻の頭には絆創膏を貼っている。筋肉質だが、決して角張っているわけではなく、猫……いや豹のような印象の体付きをしている。
「……えぇと、キミ、誰?」
 優牙は、サッカーをしたいのか野球をしたいのか走りたいのかよく分からない人物に向かって、取り敢えず質問してみた。
大江戸春夏(おおえど しゅんか)ッス! で、勝負するッスか、しないッスか!?」
 大江戸春夏という名前に何処か聞き覚えがあったので、脳内の記憶領域を検索する。
 ――ビンゴ、やはりあった。
「もしかして、大江戸寿司店のトコの?」
 優牙の記憶領域から引っ張り出された情報では、大江戸春夏(おおえど しゅんか)とは大江戸寿司店の長女で、優牙が引っ越し蕎麦を持って行った時には居なかった人物だ。
「そうッス!」
 と、大江戸春夏は答えた。
 それにしても、この少女、声がデカイ。
「何で、俺と決闘がしたいんだ?」
「優牙先輩は、城井先輩や飛田先輩と勝負して勝ったそうッスね? だからッス!」
 確かに、優牙は成り行きで二人と闘い、勝利している。
 そしてこの島の野蛮なルールも知っている。……特殊能力を用いた闘いをし、より優れた能力者が島の重役になれるという、この法治国家日本に於いて非常に野蛮極まりないものだ。
「キミも過激派なのか。」
 そして島の重役になる為に誰彼構わず決闘に持ち込もうとする過激な連中も当然出てくる。以前闘ったヤンキー、飛田がそうだったように。
「いいえ、違いますよ。」
 春夏とは対照的なボソボソとした声が彼女の後ろから発せられた。彼女の後ろ数歩下がったところから現れたのは春夏の弟・大江戸秋冬(おおえど しゅうと)だった。
 少女のように線の細い小柄な体と細い目、少しこけた頬、青白い短髪は姉とはまるで正反対。トートバッグを肩にかけており、着ている服は優牙と同じ学園の指定服で、あまり目立つようなものではない。
「ただ、決闘をして欲しいだけなんです。姉さんと貴方に。」
「で、決闘してくれるッスか!?」
 優牙は即決した。
「断る!」
 キッパリそう言うと、くるりと彼らに背を向けてとっととその場から立ち去ろうとする。時間的余裕があまりないからだ。
「まぁまぁ、ちょっと待って下さいよ。」
 秋冬が優牙の後を追って小走りに近寄って、彼の肩を掴みその歩みを止めた。
「姉さんと決闘をしてくれたら、お友達には手を出しませんよ。」
 その言葉に、優牙は思わず振り向いた。
 秋冬は、悪魔のような冷たい微笑をその顔に浮かべて、優牙を見ている。
「お、脅すのか!?」
 思わず聞き返した優牙に対し、冷たい微笑を浮かべたまま秋冬が答えた。
「えぇ、そうです。僕の能力を使ってね。ちょっと見てて下さい。」
 そう言って、彼はトートバッグから一冊の本を取り出した。丁度片手に収まるくらいの小さな本だ。秋冬はその本をパラパラ捲り、あるページを開いた。
「”その瞬間、それはふわりと宙に浮き上がった。”」
 開いたページの一文を指でなぞりながら、感情を込めずに秋冬は朗読した。すると、何かが激しく振動しているようなぶぶぶぶぶぶぶという大音響と共に、優牙のすぐ近くにあった大きめの石がふわり、と宙に浮いた。
「うおぉっ!?」
 驚く優牙を尻目に、まるで魔法の呪文を唱えるかのごとく再度朗読をする秋冬。
「”それは低空を滑走するように数メートル飛行し、着地した。”」
 秋冬が朗読した通り、岩は数メートル進んだ後、着地した。
「僕は、本に書いてある事を現実にする事が出来ます。距離制限はありません。さて、どうします?」
 無茶苦茶だ、と優牙は思った。秋冬の要求ではなく、彼の能力が、だ。ズバ抜けて強過ぎる、単純にそう思った。
 勿論、彼が嘘を言っている可能性もある。「本に書いてある事を現実にできる」のなら、例えば『彼(優牙)は闘い、そして負けた』というような内容を現実にしたほうが遥かに簡単な筈だ。それをやらない、という事は、何か条件があるのか、それとも「本に書いてある事を現実にする」というのは真っ赤な嘘なのか。
 何にせよ、優牙にとっては判断材料が少な過ぎる。ここは最悪の場合――つまり、友人知人たちが危険にさらされている可能性を一番に考えたほうが良さそうだった。
「闘って……負ければいいんだな?」
 一応、確認の為にそう聞いてみると、返ってきた答えは優牙にとって意外なものだった。
「いいえ。全力で闘って下さい。むしろ、こう脅しておきましょう。……姉さんを倒さないとご友人達が大変な事になりますよ?」
 その答えに、優牙はますます困惑した。
 闘わせて、勝たせるのが目的だというのか。
「ま、あなたじゃ姉さんには勝てないと思いますけども。」
 それは自身に満ちた言葉だった。どうやら彼、姉である春夏が勝つと信じて疑っていないらしい。
 優牙は秋冬が勝利を信じて止まない春夏をチラリと見た。
 彼女は何故かテニスボールでリフティングをしていた。サッカーボールより遥かに小さなテニスボールをポンポンとリズムよく時に脚の上を転がし時にあまり膨らんでいない胸で受け止めている。
「どうしたんですか。早く何か答えて下さいよ。」
 イライラしているのか、少し怒気を含めた声音で秋冬が問う。
「分かった、受けよう。」
 しぶしぶ、というよりも仕方なしに挑戦を受ける。いや、受けるしかなかった。
「あ、そうそう、一つ言い忘れてましたケド。」
「まだ何かあるのか!?」
「脅しの事は姉さんに言わないようにして下さいね。もし言ったら……。」
「あぁもう、分かった。分かったよ!」
 優牙はヤケクソ気味に返事をした。いや、実際ヤケクソだ。
「こうなったら勝ってやる……。」
 静かなる闘志をその心と瞳に秘め、優牙は一歩踏み出した。

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