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「決闘する気になってくれたッスか!」
 優牙が春夏の前に進み出ると、彼女はとても無邪気な笑顔で喜んだ。
「不本意だけどな。」
 一方、優牙は仏頂面で答えた。
「最初に言っておくッス。あっしの能力は『血と汗と涙』ッス。効果は”スポーツ用品の魂を引き出す”ッス!」
 彼女の宣言に思わず優牙は目を見張る。
「言っちゃっていいのかよ!? 能力は知られないほうが優位な筈だろ!?」
 しかし、春夏は平然とした顔。
「構わないッス。あっしは頭を使った駆け引きは苦手ッス。それにあっしの能力は細かい応用は出来ないッス。例えば……」
 そう言って彼女はドラムバッグの中から野球のボールを取り出した。それを握り締め、投球フォームをとり、
「スーパーカーブ魔球!」
 叫びながら投球。すると、投擲された球はまるで曲りくねったジェットコースターのようなでたらめな軌道ですっ飛んでいくではないか!
 凄まじい投球スピードはまったく衰える事なく、でたらめな軌道の白球は近くにあった木に衝突、何事もなかったかのようにてんてんてんと地面を転がった。
「……と、こういう事は出来るッスが、野球とは関係ない事、例えば野球のボールを蹴って”絶対にゴールに入るシュート”とかは出来ないッス。野球のボールはあくまで”野球の投球フォーム”で投げないと意味がないッス。」
「逆に言えば、」
 発言をしたのは秋冬だ。彼は優牙の後ろから春夏に向かってゆっくり歩きながら、姉の能力の補足説明をする。
「スポーツ用品さえあれば、そのスポーツ用品に関連した攻撃が出来る、という事です。この意味、分かりますよね?」
 春夏の傍らで振り返り、優牙を見る秋冬。
 そこで優牙はハッとした。春夏の服装だ。
 野球のグローブにランニングシューズ……優牙が脅される前にはサッカーボールも持っていた。そのチグハグな格好を構成しているものは全てスポーツ用品だ(、、、、、、、、、)。更に先ほどの野球のボールは大きなドラムバッグから取り出していた。恐らくあの中には数多くのスポーツ用品が詰っているのだろう。つまり、彼女は最初から準備万端なのだ。
「……俺は自分の能力なんて教えないぞ。」
「えぇ、別に構いませんよ?」
「そうッス! どんな能力が相手でも真っ向からぶつかるだけッス!」
 意気込む彼女の瞳は愚かな程に真っ直ぐで気迫十分であった。
 故に優牙は心の中で密かに申し訳なく思いながら、罠を張る。
「不意打ち御免!」
 気付かれないように、自身の背後にあった拳大の大きさの石を触覚から垂らした糸につけ、その石を勢いよく彼女の頭上目掛けて振り下ろす。
「ホイッスルはまだッスよ!」
 完全に不意打ちだったその一撃を、春夏は軽快なフットワークでかわ……さずに、左手の野球グローブであっさりキャッチしてしまった。
 しかし、それは予測済み。
 糸と石の接着を即座に剥がし、糸ごと石を掴んだグローブに接着し直す。そしてそのままグローブを奪うべく、体ごと触覚をしならせた。
 春夏も負けじとグローブを握り締め、力任せに引っ張る。
 優牙もそれに応じて引っ張るのかと思いきや、彼はあえて糸の接着を外した。
 急に力が無くなった事で、春夏が一瞬ぐら付く。
「今だ、ミィ!」
 密かに呼んでおいたミィが優牙の背中を駆け上がり、肩を踏み台にして飛び出る。
 若干体勢が崩れた春夏に向かって、ミィが口を大きく広げ、長靴を吐いた。
 完璧に顔面直撃コースの長靴を、春夏は、後ろに倒れそうな勢いのままで上体を倒し、華麗なバック転でかわす。
 しかし、優牙は更なる追撃手段を用意していた。別の石を釣り上げ、釣りの遠投の要領で、真っ直ぐ放ったのだ。ミィの長靴ではそもそも大したダメージなどまったく期待出来ないから、当たろうが当たるまいが、追撃の手段を用意していたのだ。
「ウルトラ捕球!」
 バック転を終えた直後にも関わらず、春夏は驚異的な反射神経を発揮して、止めなければ胸に当たっていたであろう石を見事に捕球した。
「グローブさえあれば、例え銃弾だろうと捕球してみせるッス!」
 そう、自慢げに豪語する春夏。優牙は、彼女なら本当にグローブ一つで銃弾を受け止めるんだろうなと正直に思った。

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